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南アに勝った心理的要素。エディージョーンズ監督の対南ア心理戦を考察する [スポーツ理論・スポーツ批評]

 私はラグビー・プレー経験は全くなく、スタジアムでトップレベルの試合を見ることもほとんどしない、「テレビ観戦専門、ラグビーファン」です。12年ほど前に、長男が高校で、二男が中学でラグビーを始めたのがそもそもの始まりで、特に二男は神奈川県関東新人大会で桐蔭と両校優勝を分けあい、関東大会予選では慶応と決勝を戦った代の、公文国際学園のフランカー(残念ながら関東大会予選から関東大会は、二男は足を骨折していて出場しませんでしたが)だったので、二男の高3の一年間は、毎試合応援に行きました。それ以来、ラグビーをテレビで熱心に見るようになりました。ちなみに二男三年生のとき桐蔭学園の一年生に、今、日本代表の松嶋幸太郎、筑波に行った怪物ウィング竹中、早稲田の10番になった小倉順平がいて、彼らが三年の時に桐蔭学園は初の日本一になったのです。一方、長男は桐蔭学園の兄弟校(進学用に分離した)桐蔭中等教育学校のラグビー部一期生、三男は桐蔭学園で柔道部に所属し、寮では柔道部員とラグビー部寮生は同じ釜の飯を食っていた(松嶋幸太郎が高3のときに高1)ので、花園では「息子の母校はわが母校」ということで、毎年桐蔭学園を熱心に応援する、という年末年始を送っています。
 テレビ観戦専門ですが、高校花園だけでなく・大学ラグビー・トップリーグ、スーパー15、ハイネケンカップ、6nations、トライネーションズ(現チャンピオンシップ)、テストマッチなどJSPORTSで放送されるラグビー放送はここ10年ほど、つまり前々回ワールドカップ前あたりからは、主要試合はほとんどすべて見ています。年間観戦数は200試合を超えていると思います。気分は「無名の小林深緑朗」みたいになっています。

 そんな立場から、今回の南ア戦の勝利とその後の盛り上がりは、うれしい限りなのですが、「感動」「努力」「気合」「ハードワーク」みたいなかんじで、相変わらずラグビーがそういう「スクールウォーズのときそのまんま」な文脈で語られるのは、ちょっとさびしい、と思ってしまうことについて、すこし論じていきたいと思います。

 どんなスポーツでもそうですが、ラグビーは特に「知的でなければ強くなれない」競技です。その意味で、南アの世界一のスクラムハーフ、フーリー・デュブレアが、日本は知的であることで南アを打ち破ったというコメントは、まさにその通りです。
 今回、日本が対・南アにおいて、戦う前から完全に勝っていたポイントは、エディージョーンズvsハイネケ・メイヤー という監督の対決部分です。エディーさんはワールドカップの決勝戦を、二回経験している。そのうち一回は南アのアドバイザーであり、今回の南アのベテラン選手たちとは代表時代からサントリー顧問時代を通じて深くかかわっていた。それに対し、メイヤーは、ブルズ監督として、国内リーグとスーパー15監督としては「名将」であっても、代表として選手全体の人心を把握できておらず、かつワールドカップ経験では、「経験も格」もエディーさんの圧勝であったのです。エディーさんについて国内メディアの報道は、どういう指導内容で日本代表を強くしたか、ということに偏って報道されますが、エディーさんの強みはもうひとつあります。大会前からの記者会見での発言で、南アの監督や選手や審判団にまでゆさぶりをかけるような発言を繰り返す、「記者会見で戦える」監督という側面です。こういう監督は世界的にみてもほとんどいない、そういう監督なのです。(サッカー界のモウリーニョみたいなものですね。)。「南アは直前のテストマッチが不調だからナーバスになっている」「代表に日本をよく知る選手が多いから、日本をリスペクトしてベストメンバーでくる」「ヤニー・ディブレッシーはスクラムで審判みたいによくしゃべる。審判がちゃんと見てくれないと困る」みたいなことをいろいろいうわけです。野村監督が「イチローはバッターボックスから打つ時、足が出る・あれは反則だろう」みたいなことを日本シリーズ前に言うとか、「カールマローンのフリースローは10秒以上時間かけているだろう」とNBAファイナル前に言う、みたいな嫌な感じのゆさぶりを記者会見で言う。「今度の試合を南アの練習試合にはさせない」と言うことで、メンバーをどうしよう、という点について、南ア監督をゆさぶった結果が、南アの選手起用と、起用された選手に微妙な迷いを生じさせたように思います。
 ゲーム内容における「知的さ」ということで言えば、試合時間80分のストーリーを描いての作戦の緻密さ、という点でも、日本は南アを圧倒していたと思います。後半の選手交代は、日本は、シナリオ通りであり、それぞれの交代選手が、どういう狙いで、何をするために出ていくかが明確に意識づけられていただけでなく、交代の意味とそれによる戦術変化が、フィールドでプレーしているチームメイトにも完全に共有されており、交代によりチーム力が上がる、混乱がまったくおきない、という点において、日本は、圧倒的に勝っていたと言えます。
 もうひとつは、審判、反則への対応での勝利。今大会は、TMOが多用されるだけではなく、「ホークアイシステム」という補助カメラシステムで、審判を欺くような反則、密集内で首に手をかける反則を厳しくチェックするという申し合わせがなされています。こうした審判の方針と技術への対応でも、日本は明確に優位に立っていました。南ア戦の主審を、直前のテストマッチに招へいし、笛の傾向をつかんでおくという対策までしてきました。その結果としてタックル後のロールアウェイをとにかく徹底し、反則を取られないようにするという規律と意識の高さで南アを圧倒していました。このあたりについて、南アは全く対応できておらず、ノットロールアウェイの反則を取られ続けることに明らかに苛立ち、「審判とも戦う」状況になっていました。これが最後のシーンのシンビンにつながり、決勝点の伏線になっていたのです。

 また視点を変えますが、南アの現役代表を大量にトップリーグに呼んできたことも、もしかするとこの対戦の対策だったのでは、と今になると思えてきました。ほんの3年前くらいまでは、トップリーグで活躍する外国人選手はニュージーランド人が主流で、次にオーストラリア人。南アの代表クラスはほとんど来ていなかったのに、ここ二シーズンは南アの代表クラスが大挙して日本に来て、チームメイトとして一緒にプレーしています。このことが、明らかに「日本にプラス、南アにマイナス」に働いたと思われます。
 「日本にプラス」はわかるけれど、「南アにマイナス」ってどういうことか、ということについて、説明したいと思います。

 南アのラグビーの強みは、変な言い方ですが、ある種の「乱暴さ」にあると、私は思っています。単に体格が大きいということではなく、NZのような洗練された技術や、オーストラリアの基本に忠実で真面目なラグビーに対して、全員ではありませんが、メンバーの中の何人かが「狂気をはらんだ凶暴さ」をときどき発揮する、そういう怖さが南アのラグビーにはあると思います。今回はキャプテンから外れましたが(須藤さん指摘ありがとうございます。チャンピォンシップではキャプテンを務めていた)フォワードリーダーのスカルクバーガーは、そういう南アのラグビーを象徴する選手だと思って、ずっと見てきました。日頃は気のいいやさしい好青年。別に常日頃から乱暴者なわけではないのに、気合が入ってプレーをするとき、とんでもなく乱暴なことをしてしまうことがあります。(密集で相手の目に指を突っ込んで、シンビンではなく退場になったこともありました。)NZのラグビーが、あくまで「ボール」に対して働き掛ける意識がものすごく高い(ので、NZ人はものすごく上手に相手のボールをもぎとります。)のに対し、「相手のカラダ」に強く働きかけようとする意識が強いと思います。
 「普段は気がいいのに、ゲームになると無慈悲に相手のカラダに破壊的に働きかけてくる」というプレーは、相手を「仲間」だと意識してしまうと、どこかに心的ブレーキがかかるのではないか、と私は思っています、本気で行っているつもりでも無意識に冷酷さにすこしだけブレーキがかかる。
 4番のデヤーグや交代で入ってきたストラウスなどは、日本とのかかわりがないので、南アの良さの「無慈悲な当たり」で豪快なトライを取ってきましたが、日本で、サントリーやパナソニックで日本選手と「仲間」になったスカルクバーガーやJPピーターセンは、もちろん全力でプレーはしていたのですが、どこかに「仲間としてのリスペクト」を持つことで、本当の意味での強みの「破壊的冷酷さ」を発揮できなかったように、私には思えました。エディーさんが繰り返し「南アは日本をリスペクトしている」と繰り返すことは、挑発しているようで、実は「格下の雑魚をぶっ潰す」という冷酷な凶暴さを封殺し、「人間対人間、対等なラグビー仲間同士の戦い」という意識に、南ア選手をマインドコントロールしたという側面があると思いました。なんというか、強さはあっても凶暴さのない、紳士的なプレーを、南アの特にベテランたちはしていたように思います。全員がデヤーグやストラウスみたいに「無慈悲にぶっつぶす」意識でプレーされたら、日本はもっといやだったと思います。選手選考も、ベテランよりも「若手のイキのいいやつで」と来られた方が、日本は嫌だったと思います。このあたり、監督の選手選考も、選手の意識も、エディーマジックにまんまとはまった、というのが、今、国内メディアではあまり論じられていない、勝因のひとつであると思っています。

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NO NAME

素晴らしい、勝利のなぞ(ではないですが)が解けた気がします。

by NO NAME (2015-09-23 03:06) 

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